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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)2076号 判決

原告

森田高城

ほか一名

被告

有限会社大阪自動車教習所

ほか一名

主文

被告らは各自、原告森田高城に対し、金四、〇六一、四一二円およびこれに対する被告有限会社新大阪自動車教習所においては昭和四八年五月二六日から、被告木下漢吉においては同年六月四日からそれぞれ支払済まで年五分の割合による金員を、原告大阪運送株式会社に対し金一、〇一九、六七五円およびこれに対する前各同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、原告森田高城と被告らとの間に生じた分についてはこれを一〇分し、その三を同原告の、その余を被告らの負担とし、原告大友運送株式会社と被告らとの間に生じた分についてはこれを一〇分し、その五を同原告の、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

被告らは各自、原告森田高城に対し金五、八五〇、七九二円、原告大友運送株式会社に対し金一、一六九、六七五円および右各金員に対する本訴状送達の日の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二 請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四七年四月二五日午後九時一〇分頃

2  場所 奈良県天理市福住町三九六五番地

名阪国道福住インターチエンジ付近

3  加害車 小型貨物自動車ダンプカー(登録番号、大阪四四み一二九〇号)

右運転者 訴外亡広田次人

4  被害車 大型貨物自動車(登録番号、大阪一一あ二七八号)

右運転者(被害者)

原告森田高城

5  態様 西進の加害車が道中央線を越えたゝめ東進の被害車と衝突した。なお、該事故により広田は死亡した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

(一) 被告会社は、加害車を保有し、これを自己のために運行の用に供していた。

(二) 被告木下は、通信用電線埋設工事の元請人である被告会社より専属的に該工事の下請をし、加害車使用のためその保管を委ねられ、これを被告木下の業務に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

(一) 右述のとおり右工事の元請人である被告会社は、被告木下に該工事を専属的に請負わせ、被告会社保有の加害車を使用させ、工事現場に現場監督を派遣し、その指揮監督下に被告木下の被用者である亡広田らに工事をさせていたものであるところ、亡広田が、加害車を被告会社の事業の執行につき運転中、酒気帯び・無免許運転、制限速度違反、対向車線進入等の過失により、本件事故を発生させた。

(二) 被告木下は、亡広田を雇用し、同人が、被告木下の事業の執行につき右加害車を運転中、前記過失により本件事故を発生させた。

三  損害

1  原告森田

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

右股関節脱臼兼同臼蓋骨折、右膝蓋骨・左コレス・左踵骨・右舟状骨々折、右下腿挫創、両手関節部・膝部擦過傷右眼角膜異物、角膜裂傷、右眼視力が〇・一に低下する後遺症

(2) 治療経過

入院

昭和四七年四月二五日から同年七月一五日まで天理よろづ相談所病院(八二日間)

昭和四七年七月一五日から同年八月一二日まで大阪府済生会吹田病院(二九日間)

昭和四八年一月二四日から同年三月二八日まで熊本県山鹿市内田外科病院(六四日間)

昭和四八年四月一一日から同年同月三〇日まで天理よろづ相談所病院(二〇日間)

通院

昭和四七年一二月一三日から昭和四八年一月二四日まで熊本県大牟田市永田整形外科病院

自宅療養

昭和四七年八月一二日診療中止後同年一二月一三日まで自宅療養

(二) 治療関係費

(1) 入院雑費 五八、五〇〇円

入院中一日三〇〇円の割合による一九五日分

(2) 通院などに要した交通費 五五、二四〇円

原告森田は、第一回の入院先より退院後、実家や兄、姉を頼り、そこを転々としながら療養に専念したゝめ右の通り交通費を必要とした。

(三) 休業損害 二、五六七、八一二円

原告は、本件事故当時二三才で、原告会社に貨物自動車の運転手として勤務し、一か月平均九三、三七五円の給与と年二回(六月と一二月)に各一か月分の給与相当額の賞与の支給を受けていたが、本件事故により昭和四七年四月二五日から昭和四九年四月一〇日まで休業を余儀なくされ、その間二、五六七、八一二円(給与二三・五か月分と賞与四回分の合計額)の収入を失つた。

(四) 慰藉料 二、七〇〇、〇〇〇円

原告森田は、本件事故のため、瀕死の重傷を負い、前記のとおり一九五日間におよぶ長期入院をし、また、通院治療をなし、昭和四九年四月一〇日の症状固定時まで二年間近く就労不能であつたものであり、その肉体的、精神的苦痛を慰藉するには二、七〇〇、〇〇〇円を必要とする。

(五) 弁護士費用 七〇〇、〇〇〇円

2  原告会社

(一) 休車損 九七二、二三五円

本件事故で原告会社所有の被害車は大破し、その修理のために五五日間の休車を余儀なくされたところ、被害車は、事故前一日平均一七、六七七円の純収益を挙げていたから、原告会社は、その間の休車損として九七二、二三五円の損害を被つた。

(二) 弁護士費用 二五〇、〇〇〇円

四  損害の填補

原告らは、次のとおり支払を受けた。

1  原告森田は、被告木下より、昭和四七年四月二六日から同年六月二五日までの休業補償として合計二三〇、七六〇円の支払を受けた。

2  原告会社は、被告らの申出により亡広田の死亡補償金を原告会社の自賠責保険より受けるため被告木下から自賠責保険保険料引当金として五二、五六〇円を受け取り預つていたので(右保険金は結局は支払われなかつた)、昭和五〇年五月一六日の本件口頭弁論期日において、同被告に対し同被告のその返還請求権と原告会社の本訴債権とをその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一の3の加害車の点、5の広田死亡の点は認め、その余は不知。

二のうち、亡広田が被告木下に雇用されたもの(但し、日雇である)であること、同人が酒気を帯び、無免許であつたことは認め、その余は争う。

加害車は、事故発生の数日前に、被告木下が訴外新大阪いすゞモーター株式会社より代金月賦支払で買入れ使用していたものであるところ、亡広田および訴外福川正之(いずれも事故発生の数日前に、被告木下が通信電線埋立工事の土工として日雇で採用していたもの)は加害車が新車であることに目をつけ、これを窃取して売却せんと共謀し、事故当日の午後九時頃飲酒の上、工事現場の宿泊所の被告木下の事務室兼寝室に忍び込んで、被告木下が保管する加害車の鍵を盗み出し、無免許であるにもかゝわらずこれを運転し、加害車を売却するため大阪方面に走行中、本件事故を発生させたものであり、被告会社は、加害車の所有者でも使用者でもないから何らの責任もないのは勿論、被告木下においても、加害車を窃取されたもので、かつ、その保管には何らの過失もなかつたから、責任を問われるいわれはない。

三は不知。

四は1および2のうち被告木下が原告ら主張の自賠責保険保険料引当金五二、五六〇円を原告会社に支払つたことは認める。

第四被告らの抗弁

本件事故による損害については、原告森田が自認している分以外に、次のとおり損害金の内払をした。

一  被告木下は、原告森田に対し、その療養先である岐阜へ三〇、〇〇〇円送金して支払つた。

二  被告木下は、原告森田に見舞金等として六〇、〇〇〇円を支払つた。

第五被告らの抗弁に対する原告森田の答弁

一は認める。

二は否認。

第六証拠関係〔略〕

理由

第一事故の発生

成立に争いのない甲第一号証、第一二号証の一ないし一四、原告森田本人尋問の結果(第一回)、証人村井忠政の証言によれば、請求原因一の事実が認められる(但し、一の3の加害車5の広田死亡の点は、当事者間に争いがない)。

第二責任原因

成立に争いのない甲第二号証、甲第一四号証の四、九被告木下本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる乙第一号証の一ないし三、乙第七号証、証人村井忠政、同高島勇、同伊藤次洙、同米澤秀男の各証言、被告会社代表者本人(第一、二回)、被告木下本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  被告会社の商号は、「有限会社新大阪自動車教習所」であるが、その事業は、通信土木工事をも目的とし、これを被告会社土木部が担当していること、被告木下は従業員八名を擁して土建業を営む者で、本件事故の二年位前からしばしば被告会社の土木工事の下請をしていたこと、

2  被告会社は、事故当時通信用電線の埋設工事を請負い、被告木下をはじめ土建業者の岩根組、坂口組を下請としてこれにあたらせていたこと、木下組は、被告木下以下全員がこれに従事し、後記木下組の車両をこれに使用していたこと、

3  右工事の飯場は、奈良県山辺郡つげ村の小倉インターチエンジ近くにある民家で、被告木下がこれを借り受け、ここに被告木下の従業員が起居し、その一部に被告会社の事務所が併設され、他の岩根組、坂口組はこれより一五〇メートル位離れて飯場を持つていたこと、

4  元請の被告会社自身は、直接工事に従事せず、右下請各組の現場監督として訴外伊藤次洙を現場に派遣し、同人は、右の事務所に起居し、食事は木下の従業員らと共にしていたこと、

5  被告木下は、本件事故の二週間位前に、加害車を訴外新大阪いすゞモーター株式会社より同会社に所有権を留保して代金月賦支払の約の買入れたが、その際、被告木下の支払能力に疑問があつたため、被告会社が名前を貸し、買主名義を被告会社とする売買契約がなされたこと、

6  被告木下は、事故の六日前の昭和四七年四月一九日、亡広田、福山正之他一名を前記埋設工事のため土工とし雇入れ、同人らは直ちに木下組の右飯場で起居し、継続して右埋設工事に従事したこと(亡広田が被告木下に雇われたことは当事者間に争いがない)、

7  ところで、木下組では被告木下所有のダンプカー、ライトバン等車両の鍵は、その日の作業の終了後、各運転手が飯場内の冷蔵庫の上の箱に入れ、就寝前に被告木下が事務室兼寝室の机の抽斗(抽斗の施錠はされていなかつたものと推認される)に収納するのを例とし、右の鍵の管理保管方法については、運転手は、これを知つていたが、土工らも必ずしも知らないわけではなく、かつ、被告木下の寝室と他の従業員らの部屋とはふすまで区切られていたにすぎず、その管理保管は充分なものでなかつたこと、

8  事件当日の夜は、被告木下は、所用で飯場を留守したが、出かける前車両の鍵の収納を従業員の高島勇に命じ、同人は、被告木下がしていたとおり冷蔵庫の上の箱の中の鍵を被告木下の寝室の机の抽斗に収納したこと、

9  亡広田と福山は、事件当夜飲酒して酒に酔い、高島が就寝した後、無免許であるにもかかわらず右の机の中から鍵を取り出して加害車に乗り込み、約二〇ないし三〇分走行し事故現場に至つたが、事故時には亡広田が運転していたこと(亡広田が酒気を帯び、無免許であつたことは当事者間に争いがない)、

10  その時の亡広田の服装は、下半身がステテコ姿でズボンを着用しておらず、飯場内には風呂敷包みに同人のズボン一着が遺留され、福山の所持品はなかつたこと、

11  被告会社は、自己が直接使用する建設用車両には通称として「新大阪土木部」なる表示をするが、被告木下も加害車の左右側面に右表示のうち「部」一字を取り除いた「新大阪土木」なる右表示と酷似した表示を大書しており、被告会社もこれを知つていたが、特にこれを抹消することを求めていなかつたこと、

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、本件全証拠によるも、亡広田、福山の両名が加害車を窃取してこれを売却しそのまゝ右飯場から逃走しようとの意思を有していた事実は認められない。

以上によれば、被告木下は、加害車の所有者であつてこれを運転した亡広田との間には雇用関係があり、また、被告会社は、前記電線埋設工事を被告木下に下請させたものであるが、右事実を総合すれば、被告木下、その亡広田らの被用者、加害車その他の車両に対し直接間接に指揮監督関係、支配を及ぼしていたものと考えられるから、他に特段の事情の認むべきもののない本件においては、被告会社、被告木下とも加害車を自己のために運行の用に供していたものといえ、両被告は、ともに、本件事故のため原告森田が被つた損害を自賠法三条により賠償すべきである。

次に、亡広田は、被告木下、被告会社の事業における自動車の運行には全く関係を持たないから、同人の加害車の運転行為は、被告木下にとつても被告会社にとつてもその事業の執行についてのものということはできず、この点に関する原告らの主張は採用することはできないけれども、被告木下が加害車(鍵)の管理保管義務を尽さなかつた過失と後記第三で説示するとおりの亡広田の過失とが競合して本件事故を生ぜしめたものであり、そして、被告木下の過失行為と本件事故との間には相当因果関係があるというべきであるから被告木下は、もとより本件事故によつて原告会社が被つた損害を賠償すべきものであるし、被告会社も、前記事実によれば、被告会社と被告木下との間には使用者、被用者と同視しうべき密接な関係があり、被告木下の加害車の管理保管は被告会社の事業における被告木下の職務行為と目しうべきものであるから、被告木下の右過失行為によつて原告会社が被つた損害を民法七一五条一項により賠償すべきものである。

第三亡広田の過失

亡広田が本件事故時に酒に酔つたうえ無免許で加害車を運転していたことは前記のとおりであり、前掲甲第一二号証の一ないし一四、証人村井の証言、原告森田本人尋問の結果(第一回)によれば、亡広田は、制限速度をかなり超過した上、道路中央線を越えて対向車線に進入したことが認められ、右認定に反する証拠はなく、亡広田には以上の過失がある。

第四損害

一  原告森田

1  受傷治療経過等

(一) 受傷

成立に争いのない甲第三および五号証によれば、請求原因三の1の(一)の(1)の事実が認められる(ただし、右視力が〇・一に低下したとは裸眼視力のことであり、矯正視力は〇・七である)。

(二) 治療経過

成立に争いのない甲第三、四号証、甲第九号証、甲第一〇号証、甲第一五号証、原告森田本人尋問の結果(第一回)によれば、請求原因三の1の(一)の(2)事実が認められる。

2  治療関係費

(一) 入院雑費 五八、二〇〇円

前掲甲第三、四号証、甲第一〇号証、甲第一五号証と経験によれば、原告森田は合計一九五日間入院し、その間一日三〇〇円の割合による合計五八、二〇〇円の入院雑費を要したと認めるのが相当である(ただし、昭和四七年七月一五日は二度計上しているから一九四日として計算する)。

(二) 通院等交通費 五五、二四〇円

前記認定の原告森田の治療の経過、入通院先等に原告森田本人尋問の結果(第二回)を併せ考えると同原告が治療に伴う交通費として五五、二四〇円を要したことが認められ、右金額は本件事故と相当因果関係があると認められる。

3  休業損害 二、九三八、七三二円

前掲甲第一五号証、成立に争いのない甲第一一号証の一、二、原告森田本人尋問の結果(第一回)によれば、請求原因三の1の(三)の事実のうち、一か月平均の給与額および休業損額の総額を除いた事実が認められる。右甲第一一号証の一、二によれば、本件事故当時の原告森田の一か月の平均給与は、一〇六、八六三円であることが認められるから、右金額を基礎にして同原告の被つた休業損害額を算定すると、二、九三八、七三二円となる。

4  慰藉料 九〇〇、〇〇〇円

前記認定の原告森田の受傷の部位、程度、治療経過休業期間、同原告の年令等諸般の事情を考慮すると、同原告の慰藉料額は九〇〇、〇〇〇円が相当と認められる。

5  損害の填補

請求原因四の1と被告らの抗弁一の各事実は当事者間に争いはなく、本件全証拠によるも被告らの抗弁二の事実は認められない。

6  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告森田が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は三七〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

二  原告会社

1  休車損 九七二、二三五円

証人大西治一の証言と弁論の全趣旨によれば、本件事故により原告会社所有の被害車が破損し、その修理等に五五日間を要し、その間原告会社は、同車を使用できなかつた。そして、同車による一日当たりの平均純利益は一七、六七七円であることが認められるから原告会社は、九七二、二三五円の休車損を被つたことが認められる。

2  損害の填補 五二、五六〇円

請求原因四の2は、そのうち被告木下が原告ら主張の自賠責保険保険料引当金五二、五六〇円を原告会社に支払つたことは当事者間に争いがなく、その余の事実は弁論の全趣旨および本件記録に徴し明らかである。

3  弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告会社が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

第四結論

よつて、被告らは、各自、原告森田に対し四、〇六一、四一二円、原告会社に対し一、〇一九、六七五円および各右金員に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな被告会社においては昭和四八年五月二六日から、同木下においては同年六月四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木弘 丹羽日出夫 山崎宏)

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